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第6話:第1回芥川賞・直木賞

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第6話:第1回芥川賞・直木賞
文学・文壇
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最初の受賞者が示した“二つの道”

1935年。 菊池寛が長年温めてきた構想が、ついに現実になる。

芥川賞と直木賞。

震災と死が生んだ二つの賞は、この年の夏、初めて“動き出した”。

文壇はざわつき、 新聞は大きく取り上げ、 若い作家たちは胸を高鳴らせた。

だが、最も緊張していたのは、 菊池寛その人だった。

「この二つの賞は、本当に“静”と“動”を分けることができるのか。」

その答えは、 最初の受賞者たちが示すことになる。

1. 芥川賞第1回──石川達三『蒼氓』

社会の影を描いた新人の衝撃**

第1回芥川賞を受賞したのは、 石川達三の『蒼氓(そうぼう)』。

舞台は海外移民。 貧困、差別、搾取── 日本社会の“影”を真正面から描いた作品だった。

これは、芥川龍之介の“静謐な芸術”とは違う。 しかし、

「社会の現実を、文学の言葉で切り取る」

という新しい純文学の方向性を示した。

芥川賞は、 志賀直哉のような“完璧な文体”を継ぐ賞ではなく、

「社会の痛点を描く新人のための賞」

として動き始めたのだ。

菊池寛は、この選択に深く頷いた。

2. 直木賞第1回──川口松太郎『鶴八鶴次郎』

大衆を熱狂させる“物語の力”**

一方、直木賞第1回を受賞したのは、 川口松太郎『鶴八鶴次郎』。

江戸の芸人の世界を舞台にした、 軽やかで、洒脱で、 読者を一気に引き込む娯楽小説だった。

これは、直木三十五が生涯追い求めた

  • 面白さ
  • スピード
  • 大衆性

そのものだった。

新聞連載で鍛えられたテンポ、 読者を飽きさせない構成、 情と笑いの絶妙なバランス。

直木賞は、

「読者に選ばれる物語」を評価する賞

として動き出した。

菊池寛は、 亡き戦友・直木三十五が笑っている姿を思い浮かべたという。

3. 二つの賞が示した“最初の分岐”

第1回の受賞作が示したのは、 芥川賞と直木賞が“理念”ではなく “作品”によって動き出す賞である という事実だった。

  • 芥川賞=社会の影を描く新人
  • 直木賞=大衆を熱狂させる物語

この“最初の分岐”が、 その後の日本文学の地図を決定づける。

芥川賞は、 社会の痛み、個人の孤独、時代の歪みを描く新人を輩出し続ける。

直木賞は、 読者を楽しませ、泣かせ、熱狂させる物語の職人を育て続ける。

静と動。 影と光。 芸術と娯楽。

二つの賞は、 その両方を抱えながら昭和から令和へと続いていく。

4. 菊池寛の胸に去来したもの

第1回の受賞者が決まった夜、 菊池寛は静かに酒を飲んだという。

芥川龍之介の死。 直木三十五の死。 震災の焦土で見た二人の背中。

そのすべてが、 この二つの賞に結晶していた。

「これでいい。 文学は、静と動の両方が必要なのだ。」

菊池寛はそう呟いた。

5. 賞は“理念”ではなく“受賞作”で動き出す

芥川賞と直木賞は、 理念ではなく、 最初の受賞作によって方向性が決まった。

石川達三と川口松太郎。 この二人が示した“最初の道”が、 その後の日本文学の流れを決定づけた。

そして今もなお、 芥川賞と直木賞は、 静と動の両輪として回り続けている。