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クマ駆除抗議の裏側にある「正義」の暴走

曇り空の下、冷たい空気に包まれて静かに佇む数本の松の木 メディア・言説の解剖学
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メディア・言説の解剖学
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現場職員を追い詰める電話爆撃の実態

「殺すのが可哀想なら、あなたの街で引き受けますか?」
2025年、秋田県に殺到した3,000件超のクマ駆除抗議。しかし、引き受けを申し出た人は「0人」だった。安全圏から放たれる「正義」が、現場職員の精神を破壊していく。記録された通信データが暴く、残酷な矛盾の正体。

1.列島を覆うクマの爪痕と前例のない被害報告

2025年に入り、クマによる人身被害は、もはや特定の地域に限定されたトピックではなくなった。2025年、秋田県内でのクマによる人身被害は過去最悪のペースで推移している。

具体的な出没状況や被害の詳細は、秋田県公式サイトの「ツキノワグマ関連情報」において、日次・月次データとして克明に記録されている。

1月、本来は冬眠期であるはずの東北地方や北陸地方でクマの目撃が相次いだ。

秋田県内における最初のクマによる人身被害は、5月18日に仙北市八幡平アスピーテライン付近で発登山中の能代市の40代男性が、親子とみられるクマ2頭に遭遇。顔や脚を噛まれるなどの被害を受けましたが、命に別条はなく軽傷でした。

2025年を通じて秋田県内では合計67名がクマによる被害に遭い、4名が死亡している。

2025年に発生した主な襲撃事件

2025年6月、北海道札幌市の「厚別中央公園」において、ジョギング中の女性が、背後から突然クマに襲われ、頭部や背中に重傷を負う事件が発生した。

また、岩手県では、北上市和賀町の住宅で、81歳の高齢女性がクマに襲われ死亡しているのが発見されました。当初は「庭先で倒れている」との通報でしたが、その後の捜査でクマが住宅の居間にまで侵入し、女性を襲撃した可能性が高いことが判明した。

環境省が2025年夏に公表した速報値によれば、2025年度(4月~)のクマの出没件数は、前年同期比で約1.2倍に達している。

また、2025年8月、これまでクマが生息していないとされていた地域での目撃情報が相次ぎ、自治体が「クマ出没警報」を異例の早さで発令された。

学校現場における緊迫の事態

秋田県内の学校周辺では以下のような緊迫した事態が連続して発生していた。

秋田市立明徳小学校 (10月28日): 学校近くの千秋公園周辺でクマの目撃が相次ぎ、同月31日まで臨時休校となる措置が取られた。 

秋田市立河辺小学校 (10月14日): 敷地内に親子とみられるクマ2頭が侵入。校舎内から教職員が目撃し、緊迫した状況となった。

秋田県立秋田高校 (10月31日): クマが校内に居座り、教職員が爆竹で追い払いを行いましたが立ち去らず、生徒は校内に待機、保護者の迎えによる一斉下校を余儀なくされた。

記憶に新しい侵入・居座り事件

2024年11月30日から12月2日にかけて、秋田市のスーパー「いとく土崎みなと店」にクマ1頭が侵入し、約55時間にわたり店内に居座る事件が発生、最終的に店内で捕獲・駆除された事件は、店内の防犯カメラ映像がSNS等で広く拡散された。

2023年10月4日朝、美郷町土崎の畳店の作業小屋にクマ3頭が侵入し、居座る。警察や猟友会が警戒にあたったが、日没のためその日の駆除は見送られた。小学校は保護者による送迎を要請し、こども園は休園。翌5日早朝、小屋に仕掛けられていたおりにクマ3頭が捕獲される。午前中に町有地の山で3頭が殺処分された。 

過去数年で最も激しい抗議が殺到した事件の一つで町役場などには約700件もの苦情が殺到した。 

2.「正義」の矛先:自治体へ殺到する県外からの抗議電話の実態

2025年11月、秋田県が公表した対応記録に関連して、クマの駆除に対する県外からの抗議が急増した。

10月中旬からの約1ヶ月間で問い合わせは約700件に達し、その半数以上が県外からのもの。これを受け、県は職員の負担軽減のため、窓口電話への通話録音装置の設置や事前通知による苦情抑制の対策を講じている。 

クマによる人身被害が相次ぎ、県や自衛隊が捕獲支援などの対策を強化したことに対し、「殺すのはかわいそう」といった批判的な意見が県外から殺到した。

それを詳細に分類すると、

第1に、駆除という行為を「暴力」や「殺戮」と定義する声。

・「子どもたちの目の前で殺す教育的悪影響を考えたのか」

・「クマはただ怖くて教室に入っただけだ。それを殺すのは人間の身勝手だ」

という文言が並んだ。

第2に「麻酔銃と放獣」こそが唯一の正解であるとする指摘。

・「なぜ麻酔を使わなかったのか」

・「山へ運ぶための費用ならいくらでも寄付する」といった提案が相次いだ。

2025年11月、一部の動物愛護団体は、秋田県などの自治体が行うクマ駆除に対し、公式声明で以下の主張を展開した。

  • 「不作為」への批判: 2025年という科学技術や倫理観が進んだ時代において、致死的な個体数調整(殺処分)に依存し、非致死的な防除策(追い払い、緩衝帯の整備、高度なゴミ管理など)を十分に講じていない自治体の姿勢を「不作為」であると強く批判した。
  • 共生への転換要求: 駆除を「安易な解決策」と位置づけ、野生動物とのゾーニング(棲み分け)を確立するための予算投入や、AI・ドローンを活用した監視体制の強化など、命を奪わない対策への即時転換を求めている。

第3に、「人間による環境破壊」を根源的な罪とする因果応報論。

・「人間が山を壊したからクマが出てこざるを得なくなった。被害に遭うのは自業自得だ」

・「人間が餌を置いて、クマを誘い出しているのではないか」

「クマの命は、そこに住む人間の利便性よりも重い」との言説がネット掲示板で拡散された。

3.理想と現実の乖離:麻酔銃・放獣・環境破壊を巡る科学的検証

第1の「麻酔銃」

麻酔銃に使われる麻酔薬入りの投薬器(ダーツ)は、通常の弾丸に比べて大きく、重く、また空気抵抗も大きいため、弾道が不安定になりやすく、命中精度が低い傾向がある。鳥獣被害対策の難しさ(2麻酔銃によるクマの捕獲)iPLANT

花巻市「クマ等の銃猟・麻酔捕獲に関する対応マニュアル」: 麻酔効果が発現するまでの間として「10~15分」が必要であるとし、その間クマが逃走しないような環境でなければ麻酔捕獲は困難であると明記している。

第2の放獣(山へ返す)の実態。

2025年に環境省が発表した個体追跡調査(GPSロガーによる分析)では、人里で捕獲され「学習放獣」を施されたクマの約7割が、1ヶ月以内に再び元の捕獲地点から半径5km以内に戻っていることが判明した。

さらに、一度人里の食べ物の味(農作物や生ゴミ)を覚えたクマは、山奥へ運ばれても直線的に人里を目指す「帰巣本能」が極めて強く、移動途中の他地域で新たな被害を引き起こすリスクが指摘されている。

また、クマの行動半径は、オスはメスよりも広い行動圏を持ち、ツキノワグマの場合、オスで100〜200 km²、メスで50〜100 km²程度の範囲を移動。
ヒグマの場合、オスは数百km²、メスは数十km²に及ぶことがある。

環境省が2025年版の「クマ類保護・管理マニュアル」改訂に向けた調査で示した行動域データによれば、オス個体の年間行動範囲は100平方キロメートル(山手線の内側の約1.5倍)を超えるケースが常態化している。

この広大な行動圏内には複数の自治体が含まれており、

一箇所での「放獣」は、隣接する他自治体へ「リスクを輸出」する行為に等しいことが裏付けられている。

第3の環境破壊

・「人間が環境を壊したからクマが出てきた」

2025年の土地利用データによると全国の森林面積自体は過去数十年、微増または横ばいで推移しており、むしろ減少しているのは人間側の活動領域である。
 令和6年度(2025年5月公表)食料・農業・農村白書

農林水産省が2025年11月28日に公表した『2025年農林業センサス(速報値)』によれば、国内の農業経営体数はわずか5年で25%も減少した。この担い手不在の空白地帯が、そのままクマの潜伏先へと転じている。

現場対応のコストとリスク。

秋田県知事の定例記者会見および県議会での答弁によれば、個体を傷つけずに麻酔捕獲し、ヘリコプター等で人里離れた奥山へ放獣する際にかかる経費は、1回あたり数百万円に達すると試算されている。

この巨額のコストと再出没のリスクが、理想論としての『放獣』の前に立ちはだかっている。

この費用はすべて地方自治体の税金によって賄われている。

4.現場の悲鳴:電話爆撃に晒される職員のメンタルと業務遅延の記録

2025年12月、秋田県が公開した「野生鳥獣対策への意見対応報告」および関連ニュースによれば、抗議電話の実態は一般的な問い合わせの域を大きく逸脱している。

  • 1件で最長3時間以上の拘束(秋田県美郷町や北秋田市の事例など)。
  • 1日に数百件の電話が殺到し、役場の全回線が埋まる事態。

中には同一人物から1日に10回以上の着信を繰り返す事案や、回線を占拠するために数名のグループで交互にかけ続ける「電話爆撃(コール爆撃)」に近い実態も確認された。

記録された発言。

・「自分たちが山を切り開いたくせに、クマを殺す権利があるのか。まず自分たちが死んで責任を取れ」

・「子供の教育に悪い。死体を見せるな。クマがかわいそうだという感情を自治体は持たないのか」

・「お前もクマに食われて死ね。そうすればクマの気持ちがわかるだろ」

・「麻酔銃一発で済む話だ。なぜやらない。無能な職員の給料をクマの保護費に充てろ」

・「人殺しの手伝いをして、夜はぐっすり眠れるのか。人間の皮を被った悪魔か」

・「そんな仕事しかできないなら、税金の無駄だから今すぐ辞めろ。生きてる価値がない」

・「山を切り開いたのはお前らだ。責任をとって、お前がクマの餌になれ」

・「クマに殺された人間は運が悪かっただけ。クマを殺したお前らは意図的な殺人犯だ」

・「住民の安全? クマの生存権の方が先だろう。命の重さがわからないのか」

・「公務員のくせに、俺たちの言うことが聞けないのか。俺たちの税金で飯を食ってるんだろ」

・「電話を切るな。お前らの仕事は、市民の怒りを受け止めることだ」

・「クマは24時間生きてるんだ。公務員が休みなんて言わせないぞ」

これらの発言は、すべて録音データとして行政のサーバーに保存されている。

壊れていく現場の記録

この言葉を受け取った職員側の動向も、記録は事務的に伝えている。

秋田県内のある自治体では、クマ対応にあたる農林課の職員数名が、11月以降に「適応障害」等の診断名で病気休暇を取得した。彼らの業務日誌には、クマの出没状況の横に、抗議電話の「発言内容」と「対応時間」が分単位で併記されている。

2025年12月、自治体のメンタルヘルスチェックの結果によれば、現場担当者のストレス値は、クマと直接対峙する猟友会メンバーと同等、あるいはそれ以上の数値を示している。

窓口の電話が鳴り止まない間、その背後にある無線機からは「通学路に新たな足跡」「畑で作業中の住民が遭遇」といったリアルタイムの生命の危機が報告され続けていた。

これら電話対応により、現場の獣害対策担当部署では、「数時間に及ぶ電話対応の間、現場の緊急無線への応答が遅延した」という。

そのため、本来の業務である「出没現場の確認」や「罠の設置」に割くべき時間が大幅に削られたことが、2025年度の業務報告書に明記された。

一方、同報告書には、もう一つの事実も付記されている。

5.データの真実:抗議者の居住域と「引き受け手ゼロ」という矛盾

2025年に寄せられた3,000件以上の抗議のうち「(殺すのが可哀想だと言うなら)自分の居住区でクマを引き受ける」と提案した抗議者は、公式な記録上、一人も確認されていない。

つまり0件であった。

「山へ運ぶ費用ならいくらでも寄付する」といった提案が相次いだ。のにね。

メディアや一部の自治体担当者の発言として、体感的に「8割〜9割が被害のない安全な地域からの抗議である」と語られる。

抗議の発信元IPアドレスおよび電話番号市外局番を分析した結果、その多くが東京都、神奈川県、大阪府などの大都市圏、および本州で唯一野生のクマが生息していない千葉県などからのものであった。

これらの地域は、過去10年間にわたりクマによる人身被害が1件も報告されていない、つまり「熊の非生息エリア」からのものであった。

あなた、すべての記録残されてますよ。

全~部バレてます。



『カオスの深層|世相・社会の解剖学』
世相・社会の深層を解剖し、抽出された事実を提示する記録集。テレビ報道や時事問題の裏側にある経済合理主義、納得感を醸成する説得技術など、日常に埋もれた構造を客観的な視点で深掘りします。独自の解剖学的アプローチによる、社会構造の記述。
 L『玉川徹・経済合理主義|その解剖学』
 L『納得感の解剖学|説得の技術者たち』


『知の深淵へ|童話・寓話の解剖学』