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干支外伝:「あんたなんか、かわいいもんだ」若いキツネとみだらなタヌキ

葛飾北斎の「月と狸(仮)」と、小原古邨の「踊る狐」を組み合わせた画像。左側は月を見上げる狸、右側は蓮の葉を被って踊る狐が描かれている。パブリックドメインの日本画コラージュ。 寓界星
葛飾北斎「月と狸」・小原古邨「踊る狐」(パブリックドメイン)
寓界星
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干支を決めるための招待状が、山の者たちにも届いた。

だが、そこに姿を見せなかった者たちがいる。
ある者は、狡猾すぎると噂され。ある者は、みだらすぎると書かれた。

この二匹――キツネとタヌキは、書類審査で落ちた。

「オレさ、誤解されてるけど、生態だけは、ちょっと誇っていいと思ってんだよね

「あら、珍しく自慢? どうぞどうぞ、聞いてあげるわよ」

「まず、オレ、北半球ほぼ全部に住んでるからな。都市にも山にも砂漠にもいる。

適応力の化け物って呼ばれてんだぜ。
アメリカにも、ロシアにも、イギリスにもな。

それでもどこ行っても、“ずるい顔してる”って言われる。

なんだよ、“ずるい顔”って。顔は選べねえだろ

「へえ、すごいじゃない。あたしは日本限定だけど、疑似冬眠するのよ。

寒くなったら、ちゃんと脂肪ためて、こたつみたいに巣穴でぬくぬくしてるの。

それなのに、“みだら”って言葉だけは全国区。どこでそんなイメージついたのさ。
腹が出てるだけで。それ、骨格の問題だから

「それ、ただの引きこもりじゃねえの?」

「違うわよ! ちゃんと代謝を落として省エネしてんの。」

「しかも、夫婦で子育てするのよ? イヌ科でそんなに仲良しなの、珍しいんだから」

「……それはちょっと羨ましいな。

オレなんか、繁殖期以外は完全に単独行動だぞ。子育て? したことねえよ。

でもな、縄張りの管理は完璧だ。マーキングの精度、見せてやりてえくらいだ」

「あたしもね、雑食性では負けないわよ。ミミズも食べるし、柿も食べるし、人間のコンビニ弁当もいける。
食の多様性=生存戦略ってやつよ」

「オレも雑食だけど、“ゴミ漁ってる”って言われると、ちょっと傷つくよな。

「生きてるだけで、なんで“汚い”って言われなきゃなんねえんだ。

オレの鳴き声、聞いたことあるか?
“コンコン”じゃねえぞ。“ギャー”だ。“キューン”だ。

それ聞いて“呪われた”って逃げてくんだ。こっちはただ、腹減って鳴いてるだけなのによ」

「あたしなんか、腹鳴らしただけで“腹鼓”だよ。
しかも“宴会好き”って決めつけられて、どこ行っても“酒持ってこい”って言われるの。
あたし、下戸なのに。」

「ほんとそれ。あたしなんか、“タヌキ寝入り”って言葉のせいで、“ずるい・怠け者・嘘つき”の三拍子よ。寝てるんじゃないの、危険を察知して動かないだけなのに」

「オレも“化かす”って言われるけど、あれ、人間が勝手に迷ってるだけだからな。

山で道に迷ったら、全部オレのせい。GPSの使い方知らねえのかよ

「……オレたち、生態だけは、ちゃんとしてんのにな

「ほんとよね。生きるために進化した結果が、“化ける”だの“騙す”だの言われるなんて、やってらんないわよ。」

「でも、オレのほうが誤解されてるけどな」

「は? あんたなんか、こっちに比べたらかわいいもんよ

「いやいや、オレなんか、“九尾の狐”のせいで、国を滅ぼす妖怪扱いされてんだぞ。
あれ、中国から来たやつだろ?

あいつが来てからだよ、
オレたち在来のキツネまで“妖怪”扱いされるようになるなんて。

オレはただ、ネズミ食って、たまに畑のスイカつついてただけだぞ?」

「あたしなんか、“文福茶釜”のせいで、“変な踊りしてるエロ狸”って思われてんのよ。

どこ行っても“お湯沸かして”って言われるけど、あれ、あたしじゃないからね?」

「……」


「……」

「でも、オレのほうが不幸だな」

「またそれ? いい加減にしなさいよ。あんた、それくらいで嘆いてたら甘いわよ」

「いや、事実だし。
オレさ、なんで干支に入れなかったか知ってるか?

頭が切れると、すぐ“信用ならん”ってな。知恵があるってだけなのによ」

「こっちはね、何もしてないのに“みだら”って言われて落とされたのよ」

「しかも勝手に“置物”にされて、腹出して、金袋持たされて、“商売繁盛”って、どんな羞恥プレイよ

「オレなんか“神の使い”だぞ? 勝手に祀られて、勝手に怖がられて、挙げ句の果てに“化けて出る”って。木の葉で金作ったら“詐欺”って言われたぞ」

「あたしなんか、木の葉で通帳作ったら、ATMに突っ込んで詰まらせたってニュースになったわよ」

「七化けって言うけど、オレは百化けできる。

人間の女に化けたら、婚姻届まで書かされたんだぞ。でもな、オレはただ一度でいいから、
“素のままの顔が好き”って言われたかっただけなんだ」

「あたしなんか茶釜に化けて、火にかけられて、“熱っ!”って叫んでバレたのよ。
あれ以来、湯気がトラウマよ。

あたしだって、“本物のあなたが好き”って言われたかった。でも、誰も“本物”を見ようとしない

「でも、オレのほうが不幸だな」

「なに言ってんの、
あんたなんか、こっちに比べたらかわいいもんよ

「夜道で見かけただけで“呪われる”なんて、あたしなんか“見かけたら事故る”って言われてんのよ」

「……それ、ちょっと羨ましいな」

「は?」

「いや、なんか、語感がいい

「……バカじゃないの?」

「バカじゃ化けられねえよ」

「化けたって、どうせバレるじゃない」

バレるまでが化かしってもんよ。
それに、バレるってことは、ちゃんと見てもらえてるってことだろ?

あたしの“バレる化け”のほうが人間味ある、なんて言ってたのはどこの誰だよ」

「……それ、ちょっと悔しいけど、分かる気がする。
ふふ、あんた、嫌いじゃないわよ」

二人だけの夜は、このまま続いていく。

この2匹は、書類審査で落とされた。


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