干支を決めるための招待状が、山の者たちにも届いた。
だが、そこに姿を見せなかった者たちがいる。
ある者は、狡猾すぎると噂され。ある者は、みだらすぎると書かれた。
この二匹――キツネとタヌキは、書類審査で落ちた。
「オレさ、誤解されてるけど、生態だけは、ちょっと誇っていいと思ってんだよね」
「あら、珍しく自慢? どうぞどうぞ、聞いてあげるわよ」
「まず、オレ、北半球ほぼ全部に住んでるからな。都市にも山にも砂漠にもいる。
適応力の化け物って呼ばれてんだぜ。
アメリカにも、ロシアにも、イギリスにもな。
それでもどこ行っても、“ずるい顔してる”って言われる。
なんだよ、“ずるい顔”って。顔は選べねえだろ」
「へえ、すごいじゃない。あたしは日本限定だけど、疑似冬眠するのよ。
寒くなったら、ちゃんと脂肪ためて、こたつみたいに巣穴でぬくぬくしてるの。
それなのに、“みだら”って言葉だけは全国区。どこでそんなイメージついたのさ。
腹が出てるだけで。それ、骨格の問題だから!
「それ、ただの引きこもりじゃねえの?」
「違うわよ! ちゃんと代謝を落として省エネしてんの。」
「しかも、夫婦で子育てするのよ? イヌ科でそんなに仲良しなの、珍しいんだから」
「……それはちょっと羨ましいな。
オレなんか、繁殖期以外は完全に単独行動だぞ。子育て? したことねえよ。
でもな、縄張りの管理は完璧だ。マーキングの精度、見せてやりてえくらいだ」
「あたしもね、雑食性では負けないわよ。ミミズも食べるし、柿も食べるし、人間のコンビニ弁当もいける。
食の多様性=生存戦略ってやつよ」
「オレも雑食だけど、“ゴミ漁ってる”って言われると、ちょっと傷つくよな。
「生きてるだけで、なんで“汚い”って言われなきゃなんねえんだ。
オレの鳴き声、聞いたことあるか?
“コンコン”じゃねえぞ。“ギャー”だ。“キューン”だ。
それ聞いて“呪われた”って逃げてくんだ。こっちはただ、腹減って鳴いてるだけなのによ」
「あたしなんか、腹鳴らしただけで“腹鼓”だよ。
しかも“宴会好き”って決めつけられて、どこ行っても“酒持ってこい”って言われるの。
あたし、下戸なのに。」
「ほんとそれ。あたしなんか、“タヌキ寝入り”って言葉のせいで、“ずるい・怠け者・嘘つき”の三拍子よ。寝てるんじゃないの、危険を察知して動かないだけなのに」
「オレも“化かす”って言われるけど、あれ、人間が勝手に迷ってるだけだからな。
山で道に迷ったら、全部オレのせい。GPSの使い方知らねえのかよ」
「……オレたち、生態だけは、ちゃんとしてんのにな」
「ほんとよね。生きるために進化した結果が、“化ける”だの“騙す”だの言われるなんて、やってらんないわよ。」
「でも、オレのほうが誤解されてるけどな」
「は? あんたなんか、こっちに比べたらかわいいもんよ」
「いやいや、オレなんか、“九尾の狐”のせいで、国を滅ぼす妖怪扱いされてんだぞ。
あれ、中国から来たやつだろ?
あいつが来てからだよ、
オレたち在来のキツネまで“妖怪”扱いされるようになるなんて。
オレはただ、ネズミ食って、たまに畑のスイカつついてただけだぞ?」
「あたしなんか、“文福茶釜”のせいで、“変な踊りしてるエロ狸”って思われてんのよ。
どこ行っても“お湯沸かして”って言われるけど、あれ、あたしじゃないからね?」
「……」
「……」
「でも、オレのほうが不幸だな」
「またそれ? いい加減にしなさいよ。あんた、それくらいで嘆いてたら甘いわよ」
「いや、事実だし。
オレさ、なんで干支に入れなかったか知ってるか?
頭が切れると、すぐ“信用ならん”ってな。知恵があるってだけなのによ」
「こっちはね、何もしてないのに“みだら”って言われて落とされたのよ」
「しかも勝手に“置物”にされて、腹出して、金袋持たされて、“商売繁盛”って、どんな羞恥プレイよ」
「オレなんか“神の使い”だぞ? 勝手に祀られて、勝手に怖がられて、挙げ句の果てに“化けて出る”って。木の葉で金作ったら“詐欺”って言われたぞ」
「あたしなんか、木の葉で通帳作ったら、ATMに突っ込んで詰まらせたってニュースになったわよ」
「七化けって言うけど、オレは百化けできる。
人間の女に化けたら、婚姻届まで書かされたんだぞ。でもな、オレはただ一度でいいから、
“素のままの顔が好き”って言われたかっただけなんだ」
「あたしなんか茶釜に化けて、火にかけられて、“熱っ!”って叫んでバレたのよ。
あれ以来、湯気がトラウマよ。
あたしだって、“本物のあなたが好き”って言われたかった。でも、誰も“本物”を見ようとしない」
「でも、オレのほうが不幸だな」
「なに言ってんの、
あんたなんか、こっちに比べたらかわいいもんよ」
「夜道で見かけただけで“呪われる”なんて、あたしなんか“見かけたら事故る”って言われてんのよ」
「……それ、ちょっと羨ましいな」
「は?」
「いや、なんか、語感がいい」
「……バカじゃないの?」
「バカじゃ化けられねえよ」
「化けたって、どうせバレるじゃない」
「バレるまでが化かしってもんよ。
それに、バレるってことは、ちゃんと見てもらえてるってことだろ?
あたしの“バレる化け”のほうが人間味ある、なんて言ってたのはどこの誰だよ」
「……それ、ちょっと悔しいけど、分かる気がする。
ふふ、あんた、嫌いじゃないわよ」
二人だけの夜は、このまま続いていく。
この2匹は、書類審査で落とされた。
▶︎目次へ戻る 「干支外伝:仮面舞踏会の夜:選ばれし者たちの宴」
▼ 『寓界星|小説世界の母胎』の書庫一覧
▼ 社会・文化の解剖学の目次一覧を確認する
└ 1. 桃太郎伝説にみる支配の構造
└ 3. なぜに「かぐや姫」の歌は存在しないのか?
└ 4. 鉢かづき|鉢に封じられた相続の真実
└ 6. 天女の羽衣なぜ彼女は子供を捨てたのか?
└ 9. 一寸法師と打ち出の小槌の象徴性
└ 10. 舌切り雀におけるお婆さんの役割と構造
└ 11. 瓜子姫伝説|風景に刻まれた祈りと掟
▼ 歴史・平安の”闇シリーズ”の目次一覧を確認する
▼【平安の闇】――『その正義は誰が作ったのか?』