選ばれし者たちの宴
月が、天のど真ん中に凍りついた。 焚き火は音もなく燃え、闇は息をひそめる。
その中心に、ひとつの影が立った。
フクロウである。
その羽は夜を裂き、その瞳は時を貫く。
今宵、彼は語り部であり、司祭であり、演出家であり、 そして何より、
この舞台の主役である。
「……ようこそ。 影の祝祭へ。 舞踏会の夜へ」
声は低く、深く、どこか陶酔している。
「十二の輪は閉じられた。 祝福の席は満ち、名を刻まれし者たちは、 いまや天の高みにて、眠っている」
焚き火が、ぱちりと音を立てた。
フクロウはそれを合図に、さらに声を高める。
「だが、見よ! その輪の外に、なおも輝く者たちがいる!
忘却の淵に沈まず、 名を持たぬまま、語られぬまま、 それでもなお、
己の物語を抱きしめてきた者たちが!」
羽を広げ、彼は宙を仰ぐ。
「今宵、彼らは選ばれた。 一夜限りの舞台に、 誰よりも鮮やかに、誰よりも誇らしく、火のまわりに立つ」
「これは、選ばれし者たちの宴。
だが、選ばれたのは、 栄光ではなく、沈黙。 名誉ではなく、影。 それでも彼らは、語る。 語らずにはいられぬのだ。
なぜなら・・・」
「語られなかった者たちの物語は、 誰かが語らねば、永遠に失われるからだ」
フクロウは、焚き火の火に目を落とす。
「……だからこそ、語らねばならぬのだ」
そして、羽を大きく広げ、 天を仰ぎ、声を張り上げる。
「さあ、見届けよ! 今宵、選ばれし者たちの―― 語られ、記され、そして、刻まれるのを!」
「まずは――猫。 その歩みは月のしずく、沈黙すらも詩となる。優雅の化身、夜の女王。 彼女のまばたきは、世界の真理を揺らす」
▶︎ 干支外伝:猫の章「しょうがなかったのよ」
「続いて――狐。 言葉を編み、真実を遊ぶ。森の知恵袋、謎の使者。 その微笑みは、千の物語を孕む」
▶︎ 干支外伝:「あんたなんか、かわいいもんだ」若いキツネとみだらなタヌキ
「狸。 変化の達人、笑いの魔術師。 どんな姿も魅力に変える、祝祭の申し子。 その眼差しは、すべてを赦し、すべてを欺く」
▶︎ 干支外伝:「あんたなんか、かわいいもんだ」若いキツネとみだらなタヌキ
「水辺に佇むのは、カエル。 雨の記憶を背負い、風の声を聞く者。 静謐なる賢者、湿り気を帯びた叡智の泉」
▶︎ 干支外伝:カエルの章『六番目の捕殺者への嘆き』
「カラス。 空の哲人、影の観察者。黒き翼に真実を宿し、 その沈黙は、世界の終わりを告げる鐘」
▶︎ 干支外伝:カラスとフクロウの夜語り
「そして、鯨。 深海の吟遊詩人。 時を超え、波に乗せて、魂の歌を響かせる。 その声は、夜の底に届く祈り」
▶︎ 干支外伝:「オレは行かなかった」――ツチクジラ、深海の金計算
「さあ、見届けよ!
今宵、選ばれし者たちの―― 語られ、記され、そして、刻まれるのだ! この火のまわりで、
この夜のただなかで、永遠に語り継がれる“偉大なる沈黙の歴史”が、 今ここに、始まる――!!」
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└ 1. 桃太郎伝説にみる支配の構造
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└ 9. 一寸法師と打ち出の小槌の象徴性
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▼【平安の闇】――『その正義は誰が作ったのか?』