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「裸の王様」異聞:救われない最高の嘘

1913年版アンデルセン童話集より、W・ヒース・ロビンソンによる『裸の王様』のシルエットイラスト。裸に冠だけを被った王様が天蓋の下を堂々と歩き、周囲を家来や太鼓を叩く先導者が囲んでいる様子。 寓界星
出典:W. Heath Robinson, "Andersen's Fairy Tales" (1913). パブリックドメイン(Wikimedia Commonsより)。
寓界星
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「その全裸は、腐敗を焼き尽くすための正装だった。」
王は、国を救うために「裸」を選んだ。 そして二人の詐欺師は、その狂気に自ら飛び込んだ。 真実が歴史に葬られる、救われない最高の嘘。——『裸の王様』異聞。

序:誰も救われない最高の嘘

ウィーバーが箱を開け、一反の絹織物を取り出す。
それは、彼が心血を注いで織り上げた、この世のものとは思えない光沢を放つ極上の絹

テーラーが、芝居がかった、しかし有無を言わせぬ高慢な口調で語り始める。

「皆様、お目汚しを。これこそが、我が主君が求めた『天上の衣』の片鱗でございます。
どうぞ、その指先で確かめていただきたい。
……ただし、この感触を一生、忘れない自信のある方のみ

家臣たちが次々と絹に触れる。吸い付くような肌触り、指の間を滑り落ちる重み。
王は横で、子供のように目を輝かせてはしゃいでいる

「どうだ! 美しいだろう! これこそがわしに相応しい!
ほれ、お前たちもよく刻み込んでおけ!」

家臣たちは、王の「バカっぷり」を鼻で笑いながらも、その指先に残った圧倒的な「本物の感触」に、二人の実力を盲信する。

部屋に戻った王は自ら、今しがた纏ったばかりの極上の絹を床に脱ぎ捨てた。

「……おい、あんた。何してんだ。せっかくの仕事がシワになるだろ」
ウィーバーが、大事そうに拾い上げる。

「テーラー、ウィーバー。お前たちの腕は確かだ。
家臣どもの目は、今やこの世にない『至高の感触』に毒されている。……仕上げといこうじゃないか

第一章:王の狂気と決断

「わしは次のパレード、裸で歩く」

二人の息が止まった。
「正気か……? あんた、本気で言ってるのか」
「ああ。裸になることこそが、この国の腐敗を焼き尽くす最後の衣装だ」

テーラーが王を睨みつけ言葉を吐き出す。

「あんた、狂ったのか!?
裸で歩く?
そんなの、末代までの笑いもんだ
家臣だって隣国だって、みんな腹を抱えて笑うぞ!
そんなバカな王の下に、誰がついてくってんだ!」

ウィーバーも震える声で続く。
「やめろ、やめてくれよ。
あんたが死んだら、あのバカ王子が跡を継ぐんだぞ。
あの、戦ごっこしか能がないガキが……!
そんな親子が治める国なんて、一晩で滅びちまう。
俺たちが、あんたを助けてから積み上げてきた数年間が、全部ゴミになるんだぞ!

「……バカ王子か」
王がつぶやく。

二人の罵倒は、悲鳴に似ていた。
「あんた、狂ってるよ。いいか、今ならまだ間に合う。
この最高の絹を纏って、威厳たっぷりに歩くんだよ!パレードで堂々と!」

二人が、どんなに説得を試みてみても、王はクビを縦に振るそぶりさえ見せようともしない。
ただ抵抗もせず、二人の罵声を受け止めていた。
その瞳には、彼らが今まで見たこともないような、静かで残酷な光が宿っていた。

「……ああ、狂っているとも。
だがな、お前たちが救ったこの命を、一番有効に使う方法がこれなのだ」

テーラーは、長い息を吐きだした。

「……ははっ、そうかい。あんた、そこまで腹を決めてやがんのか」

テーラーは自嘲気味に笑い、それから王の目を真っ直ぐに見据えた。

「わかったよ。あんたがそこまで狂ってるってんなら、俺たちだって正気じゃぁいられねえ。
あんたが永遠のバカな王様として歴史に残るってんなら
……俺は、その横で『王を騙した稀代の詐欺師』として、永遠に付き合ってやるぜ」

沈黙を守っていたウィーバーが、一歩前に出る。

「……俺もだ。あんたの裸を、世界一の絹だと叫んでやる
地獄まで、あんたの衣装持ちとしてついてってやるよ

王の唇が、わずかに震えた。

第二章:三人の絆と最後の命令

それから、王は用意していた羊皮紙の束と重みのある袋をテーブルに置くと、

「……パレードが終わったら、これを持って北の門へ行け。
隣国の商人へは話を通してある。
お前たちは『王を騙して逃げた希代の悪党』として指名手配するが、あちらに着けば名工として迎えられるはずだ。二度と、この国には戻るな

王の、絞り出すような「最後の命令」。
だがテーラーは、その羊皮紙を手に取ると、中身も見ずに隣の暖炉へと放り投げた

「……おい! 何を――」

驚愕する王を無視して、今度はウィーバーが金貨の袋を無造作に火の中へ蹴り込む
革袋が焦げ、金貨が火床で鈍く光りながら崩れ落ちた。

「あんた、さっきから聞いてりゃ、ずいぶんと薄情じゃねえか。
忘れたのかよ、戦に負けて部下も全員死んで、泥の中に一人で転がってたのは、何処のどいつだっけ。」

テーラーが、火照った顔でニヤリと笑う。

「死体かと思ったら息があった——おれたちは、その死体から服を剥いで食い繋いできたドブネズミだよ。
今さら隣国で『高貴な職人様』なんて、反吐が出る。
……あんた、あのボロ小屋で俺たちが言ったこと、忘れたのか?」

ウィーバーが、パチパチとはぜる暖炉の火を見つめながら言葉を継ぐ。

「こっちだって、一文にもならないって分かってて、あんたを助けたんだ
今さら、安全な逃げ道なんていらねえよ。
あんたが一人で『裸のバカ』になるってんなら、俺たちはその横で『見えない服』を語り続ける
……世界一の詐欺師として、あんたの汚名が、歴史が続く限り永遠に」

燃え上がる羊皮紙の灰が、煙突へと吸い込まれていく。

「……お前たちは、本当に、救いようのない馬鹿だな

王は、燃え尽きた羊皮紙の灰を見つめ、力なく、けれど愛おしそうに笑った

第三章:戦場の出会い

そして、王は思い出していた。二人と出会った時のことを

戦場の焼け跡。灰と血の匂いがまだ消えない夜明け前。
テーラーとウィーバーは、敗残兵の死体から使える布や金具を漁っていた

「……おい、こいつ、生きてるぞ」

血と煤にまみれ、泥に半ば埋もれた男

「服だけ剥いで逃げるか?」
「いや、生かしときゃ売れるかもな」

二人が近づいた瞬間、 男がかすれた声で
「……やらねばならん。 ここで死ぬわけにはいかん
二人は思わず足を止める。

「……なんだよ、こいつ。死にかけのくせに、まだ戦る気か?」

「服は持っていけ。 だが……わしを起こせ
死ぬ前に、やらねばならんことがある」

その言葉に、 二人は初めて“この男がただ者ではない”と気づく。
「……利用できるかもしれねえな」
「こいつを生かしときゃ、何かの役に立つ」

だが、男は 血に濡れた唇でこう言った。
「わしの前でだけは、素のままの今の喋りを続けてくれ
宮殿では、だれもが本当のことを言わん。お前たちだけだ……

第四章:救いようのない馬鹿たち

自分一人ですべての泥を被り、消えていくはずだった孤独な計画
テーラーが、鼻で笑って言い放つ。

ああ、救いようのない馬鹿だよ。あんたに救われた時からな」

それは、宮廷に招かれ、職人としての誇りを与えられた瞬間のことか。
それとも、王が自分たちを「仲間」と呼んだあの日のことか。

続いて、ウィーバーが火床を蹴り、静かに、だが断固として言葉を重ねた。

「……あんたとの付き合いをはじめる前からだがな」

自嘲気味に笑う。

――あの戦場の焼け跡。
一文にもならない「死にかけの男」を拾い、なけなしの粥を啜らせた、あの時から。

王は、天を仰いだ。
視界が滲み、けれど唇は愉悦に歪んでいる。

「……歴史が続く限り永遠に、か。よかろう。わしと共に、底なしの泥沼へ来い

「おうよ。最高に派手な嘘を塗り固めて、世界中を盛大に騙してやろうじゃねえか

帰り際に王が二人に命じる。

「街で一番正直で、元気なガキどもを十人ばかり集めておけ。
お前たちの仕事は、パレードの最前列にその子らを並べることだけだ

二人は「賑やかしにでもするのか?」
と首を傾げつつ、指示通りに子供たちを手配した。

第五章:パレードと子供たちの声

パレード当日。王は全裸で現れ、二人は必死に「見えない服」の凄さを素晴らしさを沿道の民衆に語り続ける。

家臣たちは、以前見た極上品をを思い出す。

「見えない」と言えば、あの日の自分の感動と知識が嘘になる——
その恐怖から逃れられない

全員が「素晴らしい衣装でございます!」と叫ぶ。

裸だ! お尻丸出しだ!
「やーいやーい! はだかだー!」
「王様、お洋服着るの忘れちゃったんだー!」

子供たちの無邪気な声が、凍りついた大通りに響き渡った。
それは、子供たちの純粋な笑い声が、宮廷の「壮大な嘘」を物理的に打ち砕く瞬間でもあった。

テーラーは、持っていた「存在しないマントの裾」を支える手が震えるのを止められなかった
隣のウィーバーと目が合う。二人の顔からは、さっきまでの余裕が消えていた。

家臣たちは、顔を真っ赤にして、あるいは青ざめて、子供たちの声をかき消そうと必死に叫ぶ。「なんと美しい!」
「至高の衣装だ!」と。
その姿は、全裸で歩く王よりも、よほど滑稽で、よほど狂っていた

王は、子供たちの嘲笑を、まるで祝福の雨のように全身で浴びている。
その視線が一瞬、二人の方を向いた

二人は、泣きそうな顔を強引に笑みに歪め、子供たちの口を塞ぐフリをしながら、誰よりも大きく叫んだ。

「これぞ! 凡俗の目には映らぬ、王家にのみ許された奇跡の織物でございます!

第六章:王が見ていた未来

王が真に恐れていたのは、王子の軍事力は圧倒的だが、それゆえに家臣たちは「あんなバカに付き合えるか」と内心で侮りながら、表では王の顔色ばかりを伺い腐敗した世界

王は家臣たちの「盲目」と「追随」に、国の末路を見ていたのだ

王は「裸のバカな王様」として嘲笑を浴びる、
一方で、家臣は「裸を賞賛したバカ」として恥辱の泥沼へ、王子即位後に家臣は発言権を失うこととなった

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かつて、王子の命令で忠臣が隣国への内通者を探っていた。
内通者は見つかったが、返り討ちに遭い、逃走されてしまった過去があった。

隣国が壊滅したのは、それから間もなくのことだった。
王子が打って出た奇襲は、誰も想定しない角度からの一撃だった

「裸の王様の、うつけの息子」と油断していた隣国の将は、その一撃を防げなかった。

終章:嘘のない国へ

国内は今、史上最高の安定を誇っている。

数年後、退位した王の隠居所を、二人が訪ねてきた。

王は懐かしむように、
「あの絹の織物の時を覚えているか?
家臣たちはお前たちの言葉を信じた。
自分の目で見ることをやめたのだ。あのバカどもが」

三人は、お互いを見あって、にやりと笑う。

テーラーが咎めるように
「なんで、裸で歩くなんて、あんな馬鹿なことを考えついた」

「わしが譲位したとて、この国は安泰なのはわかっていたからな。
……ただ嘘のない国で渡したかっただけだよ

ウィーバーが
「ガキを集めさせたのは、あんたの最初からの計画通りだったのか……」

王は、黙ってうなずく。

「なら、もう一つ、なんで王子を、そこまで信じれたんだ」

王が答える——「内通者が逃走したのは、わしの責任でもある。 あれは王子の命令ではなく、わしが下した命だった。
だが王子は、その責任をすべて自分のものとして背負い、沈黙していた

世間はそれを“王子の失態”だと思いこんだ。
だが、あやつは国のために誤解されることを選んだのだ。
……だから、わしは決断した。」

三人は空を見上げた。

ひとりは「裸の王様」、二人は「稀代の詐欺師」として今も名を刻み続けている。


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