干支を決めるための招待状が、空を飛ぶ者たちにも届いた。
だが、そこに姿を見せなかった者たちがいる。
ある者は、夜を離れられず。
ある者は、時間を読み違え。
この二羽――カラスとフクロウは、書類審査で落ちた。
「今朝も鳴いてたな、鶏。毎日だろ」
カラスが、くちばしで羽を整えながら言った。
「ああ。あれで“偉い”と思われてるらしい」
フクロウが、ゆっくりと首を回す。
「鳴くだけで?」
「鳴く時間が“ちょうどいい”んじゃと。……それだけでな」
カラスは、くちばしを鳴らして笑った。
「笑えるな。あんなの、ただの騒音じゃん」
「夜が見えないくせにな」
フクロウの声は低く、乾いていた。
「我らの目は、網膜の桿体細胞が密集しておる。 月明かりでも、獲物の毛並みが見える。 あやつは、日が沈めば何も見えん」
「飛べるって言っても、跳ねてるだけだろ」
カラスが羽を一度だけ震わせる。
「羽根はあるのに、胸筋が重すぎて飛べない。 家畜化の代償ってやつだ」
「羽ばたくたびに、バサバサうるさい」
「我の羽根には“櫛状縁毛”がある。 空気の乱れを断ち、音を殺す構造じゃ。
狩りに音はいらぬ。気配を消してこそ、夜の掟よ」
「俺のも静かに滑空する。 音を立てたら、敵に気づかれる。 黒い羽根は、闇に溶けるためにある」
「色もな。あいつ、なんだあの配色」
「赤、白、黄、茶……目立つだけで意味がない」
「俺は黒一色。光を吸い、影に溶ける。 喪服のように、沈黙をまとう」
「くちばしも違う」
「我のは獲物を裂く。あやつのは、穀物をついばむだけの道具じゃ」
「俺は針金を曲げる。 公園の蛇口をひねって水を飲むやつもいる。
くるみを道路に置いて、車に割らせるのもいる。ニュージーランドの仲間なんか、 小枝を加工して、虫を引きずり出す道具を作るんだ」
「我らは、霊長類に次ぐ知性を持つとされておるな」
「あいつは、落ちた餌を見つけるのに三歩かかる」
「我はアテナの肩にいた。 知恵と戦略の象徴じゃ。
戦場においても、議場においても、女神は我を傍らに置いた。
目を閉じていても、我は見ておる。 闇の中にこそ、真実は潜むからな。
古代ギリシャでは、我の目を“夜の書物”と呼んだ。
書かれたものを読むのではない。 誰も読まぬものを読む。
誰も見ぬものを視る。 それが、我らの知じゃ」
「俺は八咫烏(やたがらす)。神武を導いた神の鳥だ。
三本の足は、天・地・人を結ぶ印。
太陽の運行を知り、東の空を裂いて、道を示した。俺の影を追えば、国が拓ける。
それだけじゃない。 北欧では、フギンとムニン。
思考と記憶を司る、オーディンの両翼だ。
一羽は世界を巡り、情報を集め、 一羽は過去を忘れず、神に語る。 俺たちは、神の目であり、神の記憶。 空を飛ぶだけじゃない。
世界を記録し、意味を与える者だ」
「……あやつは?」
「“コケコッコー”と鳴いて、 人間に“朝だ”と教えるだけじゃな」
「……それ、時計でよくね?」
「あいつ、群れてないと何もできないじゃん」
「我らは、群れぬ。夜は、ひとりで狩るものじゃ」
「俺たちは群れるけど、ちゃんと考えて動く。 ただの集団行動じゃない。情報を回す。役割もある」
「あやつらは、ただついていくだけじゃな」
「それに、鳴き声もな。俺たちの“カァ”には意味がある。
危険を知らせたり、餌の場所を教えたり」
「我は、鳴かぬ。鳴かぬことで、生き延びてきた」
「あいつは、鳴くしか能がない」
「しかも、毎朝同じ音じゃ。 “コケコッコー”以外、知らぬのかもしれん」
「……語彙力ゼロかよ」
カラスとフクロウの語りは、まだまだ続きそうだ。
この二羽は、書類審査で落ちた。
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