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干支外伝:カエルの章「六番目の捕殺者への嘆き」

小説
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干支を決めるための招待状が、空を飛ぶ者たちにも届いた。

だが、そこに姿を見せなかった者がいる。ある者たちは、命が惜しくていかなかった。

これは、選ばれなかった者の物語。 栄光ではなく、沈黙。 名誉ではなく、影。

それでも彼は語る。 語らずにはいられないからだ。 なぜなら――

語られなかった者たちの記憶は、 誰かが語らないと、 沼の底に沈んだまま、永遠に忘れられてしまうからだ。

モリアオガエル:「発泡タンパク質って、知ってる? 水と空気を混ぜて、泡を作るんだ。 あれで卵を包む。

木の上に、ぶら下げるようにしてな。

雨が降れば、泡が崩れて、オタマジャクシが水に落ちる。 降らなきゃ、全滅だ。

 だから、空を見てる。ずっと。 ……あいつが来ないかも、見てる」

(ぴちょん)

アマガエル:「皮膚のクロマトフォアって、便利だけど、疲れるのよ。

光、背景、湿度、気温――全部に反応する。 

だから、いつも誰かに合わせてる。 葉っぱの緑、泥の茶色、石の灰色。

……でも、あいつの目には、どうせ見えてるんでしょ?

(ずるっ)

ヒキガエル:「パロトイド腺っていうんだ。耳の後ろの、あの膨らみ。

毒が出る。強いやつだ。

 でも、あいつには効かねえ。 

春に目を覚まして、最初に考えるのが“あいつはまだいるか”だ。 ……オレたち、いつまで逃げりゃいいんだ?」

(沈黙)

アマガエル:「……ヒキガエル、来てたんだ」

ヒキガエル:「来るさ。こんな夜は、眠れねえ。

アマガエル:「モリアオも、ずっと上にいたでしょ?」

モリアオガエル:「泡が気になってね。雨が降るかと思ってた」

アマガエル:「アマガエルは?」

アマガエル:「……ここにいたよ。ずっと。色、変えてただけ。

モリアオガエル:「……あいつ、今どこにいるんだろうね」

ヒキガエル:「見えないのが、いちばん怖い。あの目、動かなくても見てる気がする」

アマガエル:「赤外線で体温を探るんだろ? オレたち、変温動物なのに、見つかるんだぜ。

モリアオガエル:「動かなくても、見つかる。網膜に赤外線を感じる細胞がある。 

体温のあるものは、暗闇でも光って見えるらしい。 夜でも、霧の中でも、あいつには関係ない」

アマガエル:「私、色を変えて隠れるしかないけど…… クロマトフォアって、意外と繊細なの。

気温とか湿度とか、ちょっとしたことでバランス崩れる。 それに、変えすぎると、どれが本当の色か分からなくなる。 

でも、あいつの目には、そもそも色なんて関係ないんだよね。 熱と動きで、こっちを見てる。

モリアオガエル:「しかも、あいつ、舌が速い。 0.07秒。まばたきより速い。 

粘液で獲物を絡め取って、引き寄せる。 こっちが跳ねるより、先に届く。

ヒキガエル:「それだけじゃねえ。 あいつ、舌の先で空気を舐めてる。

“ヤコブソン器官”ってやつで、匂いを読むんだ。

オレたちの皮膚から出る粘液の成分、 水の中に溶けた卵の匂い、 全部、あいつには“道しるべ”だ。

アマガエル:「泡の中に隠れるのは?」

モリアオガエル:「無理だよ。あれ、白くて目立つし。 木の上にぶら下がってる泡の塊なんて、 あいつの目には、熱の塊に見える。 

しかも、泡の中の子たちは動けない。 見つかったら、終わりだ。

ヒキガエル:「木の上もダメ、水の中もダメ、地面もダメ…… オレたち、どこにいりゃいいんだ?

モリアオガエル:「水に潜るしかない。底の泥に潜って、じっとしてる」

アマガエル:「でも、息が……」

ヒキガエル:「オレは皮膚呼吸できる。 泥の中でも、しばらくはな。

 でも、長くはもたねえ。 

あいつは、待つのも得意だ。 じっとして、動くのを待ってる。

 こっちが先に息切れするの、分かってるんだ。

アマガエル:「……どうして、そんなに完璧なの。 あんなの、ずるいよ

ヒキガエル:「ずるいって言ってもな。 あいつは、そうやって生きてきたんだ。 オレたちみたいなやつを、食いながらな

アマガエル:「私たち、何のために進化してきたんだろうね。

水にも逃げられるように、肺を持って、皮膚でも呼吸できるようになって、 色も変えられるようになって……

でも、全部、見抜かれる

モリアオガエル:「水の中で産んでた卵を、木の上に移したのも、 水辺に来る捕食者から守るためだった。 でも、あいつは木にも登る。 水も陸も、もう安全じゃない

ヒキガエル:「オレたち、両方に適応してきたんだよな。

エラで呼吸してた子ども時代から、肺と皮膚で呼吸する大人になって、 水から陸へ、陸から水へ、行ったり来たりして…… 

逃げ道を増やすために、そうなったんだ

アマガエル:「でも、あいつは、どこにでも来る。

水の中にも、木の上にも、地面にも。 私たちが“両方”にいる限り、 あいつも“両方”に来る

ヒキガエル:「……進化ってのは、逃げ道を増やすことだったのにな。 それでも、足りねえってのかよ

(しばし沈黙)

モリアオガエル:「……それでも、逃げるしかない

アマガエル:「うん。逃げるしかない

ヒキガエル:「……逃げて、生きる。 それが、オレたちの定めだ

3匹の嘆きは続く、まだ、まだ

カエルはヘビが怖くて、行けなかった


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