ホントかどうか、徹底比較。
第一章:メディアが煽る「令和の米騒動」と、スーパーで立ち尽くす人々の虚実
メディアやSNS上では「米価高騰」を家計の危機として「令和の米騒動」と大きく報じていた。
新聞の見出しには「主食直撃、家計に悲鳴」「新米5kg、ついに5,000円台も」といった文字が躍り、テレビのニュース番組では、スーパーの米売り場で立ち尽くす人々の姿が映し出されていた。
番組内の街頭インタビューでは、「以前は2,000円前後だったのに、2倍以上になるとさすがに買うのをためらう」「もはや諦めに近いが、主食が高いのは本当にキツい」といった、切実な消費者の声が紹介されていた。
事実、総務省「小売物価統計」等を基にした店頭価格では、米5kgはかつての2,000円前後から約4,250円へと上昇した。
総務省統計局「小売物価統計」
農林水産省「食料需給表」によれば、日本人の1人あたりの米消費量は月間約4.5kg(約30合)である。これを現在の市場価格(5kg/4,250円)で換算すると、1ヶ月の米代は約3,825円となる。
農林水産省「食料需給表」
1日あたりに直せば約127円、1食あたり(1日3食米を食べると仮定して)の主食コストは約42円である。
- 1日あたりのコスト:約127円
- 1食あたりのコスト:約42円(1日3食と仮定)
第二章:1,200円のランチ vs 1ヶ月の米代 ── 支出に潜む「4,000円」の盲点
一方で、現代人の別の支出プロファイルを浮き彫りにしている。
単身世帯の外食費は月額約15,093円(2025年公表「家計調査」より)。4人世帯では食費総額が月約9.5万円に達し、そのうち約20%~25%を「外食」が占める。
総務省統計局「家計調査報告 ―月・四半期・年―
現在、都市部のランチ単価は1,100円~1,200円が一般的であり、40代のビジネス層においては1,500円のランチも「必要経費」として許容されている。
また、60代女性の約47%が「友人との会食ランチ」に3,000円~5,000円を投じるというデータもある。この1回のランチ代は、1人が1ヶ月間に自宅で食べる米の総額(約3,825円)とほぼ同等である。
- 外食ランチ1回 (1,200円) = 家庭の米 約28食分
- シニアの会食ランチ(約4,000円) = 1ヶ月分の米の総額
外食ランチ1回分(1,200円)は、家庭で食べる米約28食分(約9日分)のコストに相当する。
「家計を圧迫している」と定義される2,250円(米5kgの増分)は、外食市場においては「ランチ2回分にも満たず、週に一度の外食を月に2回控えることで相殺可能な数値である。
第三章:米より高いパンと麺 ── 効率と嗜好の裏で支払っている「割高な主食」の現実
米の価格高騰を受け、消費者の間ではパンや麺類へのシフト、あるいは節約志向が語られている。
しかし、家計支出の細目を確認すると、主食の選択そのものが、すでに「コスト優先の食生活」という目的から逸脱している事実が浮かび上がる。
総務省の公表データによれば、2人以上世帯における1ヶ月のパンへの支出額は、約3,500円~3,800円である。
総務省家計調査(家計収支編) 調査結果
これに対し、主食としてのパン(食パン1.5枚)の自炊コストは、1食あたり約60円~80円。ここに卵、サラダ、乳製品、コーヒーといった「パン食に付随する副菜」を加えると、1食の合計は約350円~500円に達する。
一方、米を中心とした「和食」の1食(米、焼魚、味噌汁、納豆)の合計は約250円~350円である。
米5kgの価格上昇(2,250円の増分)を回避するためにパンを選択した場合、乳製品や野菜の高騰という別軸の物価上昇に直面し、結果として1食あたり約100円~150円高いコストを支払う構造になっている。
- パン食(1食):約350円~500円(卵・サラダ等の副菜を含む市場実勢価格)
- 和食(1食) :約250円~350円(米・焼魚・納豆等の標準的構成)
麺類についても同様である。
2026年の市場データでは、カップ麺の単価は150円~250円まで上昇した。
「手軽さ」という名目で選ばれるカップ麺1杯のコストは、米を炊いて食べる主食コストの約4.7倍である。米5kgの値上がり分(2,250円)は、月に11杯のカップ麺を自炊(米)に置き換えるだけで、家計から完全に消滅する計算となる。
自炊の米(1食):約42円
カップ麺(1杯):約200円(主要メーカー希望小売価格より算出)
消費者は「高い米」を忌避しながら、その数倍のコストがかかる「パン食」を維持し、さらにその数倍のコストがかかる「中食(カップ麺等)」や「特別なランチ」を日常のポートフォリオに組み込んでいる。
第四章:生存戦略のバグ ── 通信費という「聖域」に支払う生存コストの3.5倍
家計において「圧迫」という言葉が使われるとき、その矛先は常に米に向けられる。しかし、個人の家計支出における優先順位を数字で解体すると、生物学的生存とは無縁な領域に、膨大なリソースが割かれている事実に行き着く。
現在、スマホ1台を維持するための月額コスト(通信費および端末分割代)は、平均約15,000円である。「最新端末の分割代を含むキャリア決済の平均」
これを、先述した「1人が1ヶ月生き延びるために必要な米5kg(4,250円)」と比較する。
スマホ維持費:約15,000円(生存への寄与:0kcal)
米5kg :約4,250円 (生存への寄与:約35,000kcal)
数字上、現代人は「つながる権利」のために、「食べる権利」の約3.5倍のコストを支払っている。
時給1,200円の労働換算では、スマホのために約12.5時間働き、米(生存の燃料)を確保するためにはわずか3.5時間働いているに過ぎない。
さらに、米の価格高騰分(月額2,250円)を「家計の致命傷」と捉える言説を、スマホ代のボリュームと比較する。
スマホ代15,000円は、米に換算すると約17.6kg分に相当する。つまり、スマホを1台所持し続けることは、経済的インパクトにおいて「毎月5kgパック3袋半以上の米を捨てている」ことと同義である。
17kgの米があれば、成人1人が約4ヶ月間、餓死を免れることができる。
かつての昭和期(食管法時代)には、収入の多くは食糧、すなわち生存の確保に充てられていた。
対して現代人は、生存に不要な「通信」という固定費を聖域化し、その維持のために、生物学的根幹である「米」のわずか2,000円程度の値上げに悲鳴を上げている。
スマホ(非生存):月 15,000円
米 (生存) :月 4,250円
「スマホを解約すれば、米価が現在の2倍になっても家計にはお釣りが来る」
これが、感情や社会的な強迫観念を排した、純粋な計算結果である。
生存に必須な米を「高い」と断じる一方で、生存に無関係なスマホにその数倍を投じる。この支出優先順位のねじれこそが、家計における最大の「バグ」である。
第五章:感情という名の家計簿 ── 聖域化された支出が招く偽りの悲鳴
では、ここまでに確認された事実を整理する。
米価の上昇による家計の負担増は、1人あたり月額約2,250円。1食に換算すれば、わずか約22円の差である。
その一方で、平均的な家計は、米代の3.5倍にあたる15,000円をスマホ代に投じ、1,200円の外食ランチを月に数回享受し、米よりも1食あたりの単価が高いパンやカップ麺を選択している。
「生存」という目的において、米はスマホよりも圧倒的に安価であり、外食ランチ1回分を削るだけで、1ヶ月分の値上がり分は相殺される。
これが統計と計算が示す無機質な現実である。
しかし、世論は米の2,250円を「圧迫」と呼び、スマホの15,000円を「必要経費」と呼ぶ。
生存に必須なエネルギー源の確保よりも、情報インフラの維持や、利便性、あるいは他者との会食にリソースを割くことが、現代人の「生存戦略」となっている。
家計を圧迫しているのは、本当に「米の値段」なのだろうか。あるいは、無意識に「聖域」として守り続けている支出の優先順位なのだろうか。
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L『納得感の解剖学|説得の技術者たち』
『知の深淵へ|童話・寓話の解剖学』

